ここでは、自閉症と、その背景にある脳機能の障害の原因がどこにあるかを知る手がかりを説明し、その解明のために東京大学医学部精神科とその協力機関で実際にどのような研究を始めているのかご紹介したいと思います。
まず知っておいていただきたいのは、両親の性格や育て方などが自閉症の原因ではないということです。子供の自閉症発病は両親の責任であるかのように言われていた時代もかつてはありました。しかし、科学的な研究を通じてそれが間違いであることが明らかにされています。
では実際にどのようなことが自閉症の原因となっているのでしょうか?
それを解き明かす1つのヒントは発病率にあります。自閉症の発病は、自閉症の患者さんの同胞(兄弟姉妹、主に兄弟)では2%程度と推定されています。同胞での発病率が2%にしか過ぎないことは
自閉症がいわゆる「遺伝病」とは異なる
ことを示しています(=親から子・孫に高い確率で伝わる優性遺伝などの遺伝疾患とはほとんどの場合異なるということです)。ただしこの2%も、一般人口での発病率(約0.1%と推定されています)と比較すると数十倍の高さとなります。また、ふたご(双生児)での自閉症の発病の一致率(一人が自閉症の場合に、もう一人も自閉症となる割合)は、二卵性双生児では数%にすぎないのに対して、一卵性双生児では40-90%に達します。これらから数学的に得られる結論は、
健康な人ももち得る微妙な遺伝子の変化が
いくつか偶然に集まってしまったことが
自閉症の発病にかかわっている
ということです。そのようなことが一人のお子さんに偶然起こっても、同じご両親の他のお子さんに起きることは比較的稀です。ですから、自閉症のお子さんの同胞にも自閉症の起こる確率も決して高くはないわけです。
もう1つ発病率で注目すべきことは、近年自閉症の発病が増加しているらしいということです。このことから次のようにも考えられます。
自閉症の発病にわれわれの生活のまわりにある
何らかの環境的要素がからんでいる可能性もある
まとめて言いますと、自閉症は健康な人にもあり得る些細な遺伝子の変化と生活のまわりの何らかの環境的要素とが複雑にからんで起きている(=「多因子疾患」である)可能性が高いと考えられます。